大地の母、天なる父に抱かれたうつくしい世界【フォルトゥナ】
二大大陸と呼ばれる大陸の中央に存在する聖国テオゴニーアを中心に
その世界は統治されています。

テオゴニーアを中心にその他小国と呼ばれる領主達は
自身の街をめいめい特色のある街へと創り上げることにより
世界は色とりどりの幸せに溢れていました。

けれどそんな世界にも
むかしむかし、悲しい悲しい歴史がありました。

この世界には大きく分けて二つの種族が存在しています。
種族の一つが【石人―ノアミア―】と呼ばれる人々でした。

彼らはとてつもなく長命で
年端もいかないような姿でも、とても長生きしている、なんてことはよくある話でした。

そして彼らは
必ずひとつ、特技を超越した力を持っていたのです。

もう一つの種族が【無人―レスミア―】と呼ばれる人々でした。
何の力も持たない、ただの人。ノアミアよりも短命でしたが、フォルトゥナに住む人々の大多数がレスミアでした。

人々は手を取り合って、つつましくも幸せに暮らしていました。
水に囲まれた小さな島で、肩を寄せ合いながら、楽しく暮らしていたのです。

けれど。

その平和は突然破られました。

わずか一日の間に、何十人ものレスミアが、無残な姿で発見されたのです。
とある村、とある町、病死などではない、無残な、むごたらしい姿でこと切れていたのでした。
その日を皮切りにレスミアとノアミアの間には、言葉にならない亀裂が生じ始めました。

レスミアは数こそ多いですが、特に何の能力も持っていません。
ノアミアは数こそ少ないですが、レスミアにはない、特殊な力を持っていました。

殺されたのがすべてレスミアであったことも、その不信感に拍車をかけたのかもしれません。
絶対的に少ない数のノアミアが殺される確立を考える…というような冷静な判断が出来ないほど皆、毎夜繰り広げられる殺戮に恐怖し、怯えきっていました。

日に日に増えてゆく犠牲者の数だけ、不信感は増していったのです。
次第に、言葉にならない不穏な空気は町を、村を、国を、飲みこんでいきました。

そんな中、数多ある団体の一つが声をあげました。
「ノアミアは選ばれた種族だから誰ひとり殺されていない。世界に必要だから殺されない。レスミアは数ばかり増え、母なる大地を無駄に占領しては傷つけている。この謎の殺戮は母の怒りに他ならない」と。

初めは誰も信用などしませんでした。
誰ひとりとして、その言葉に耳を傾けなどしませんでした。

また別の団体が声をあげました。
「ノアミアがレスミアに怯えて殺して回っているのだ。いまだ誰ひとりノアミアは死んでいない。レスミアの数の多さに怯え、殺して回っているのだ」と。

沢山の声は様々な憶測を生みました。
うんでうんでうんでうんで、やがて人々の思想は散り散りになり、隣の家の人さえも信じられなくなっていきました。

そんな中、ノアミアを中心とする一つの団体が、教会で集会を開きました。
それは、殺されてしまった身寄りのない人たちを保護し、生活を保障するというものでした。

おなかを減らした人にはパンを
家をなくしてしまった人には家を。隣の人すら信じられなくなってしまった人々に、それはとても尊いものに見えました。
種族の垣根を越えたその行為は、とても美しいものに見えたのです。

人々は、次第にその教会に足を運ぶようになりました。
次第にその姿に、力に、偉大さに、博愛さに、癒されたかったのです。
何も信じられなくなってしまった自分自身を、信じたいと願うようになったのです。

そして。

「そもそも、ノアミアという種族が自分たち(レスミア)と同じだと錯覚していたのは、自分たちの驕りではないか」

と誰かが言うと、それはたちまち島中に広がりました。
それに賛同するものももちろんいましたが、そうではない人達もいました。

人の思想や感情というのは、数日で変わるようなものではありません。
けれど、疲弊しきっていた人達は段々とその言葉を信じるようになっていったのです。

自分たちよりも力あるものに寄り添うことで、盲目的に信じることでさびしく弱ってしまって心が満ちたのかもしれません。

けれどそれでもなお、賛同しない人たちはいました。

賛同できない人たちは、段々と居場所を失っていきました。
そして島から出ていったのです。
肥沃な土地を捨て生きる場所として選んだのは、二大大陸の砂と岩にまみれた資源の枯渇した大地でした。

島に残った人々は、ノアミアを中心とする国、人々の強い希望から「テオゴニーア」と呼ばれる国が出来ました。
テオゴニーアというのは、人々に信じることの尊さを甦らせた団体の名前です。
そして人々たっての願いから、団体の長であったサフィールがその国を治めることになったのでした。

そして、島の外に出来たのはイストニアという国でした。
レスミアの人々が作ったその国はとても資源が少なく、人が住める場所ではないとされていた「死地」と呼ばれるような砂と岩に囲まれた場所でした。

水に囲まれ、緑あふれるテオゴニーア。
砂と岩に囲まれ、水不足に悩まされるイストニア。

しかしこれで思想に振り回されることもなく
人々は平和に暮らせると信じました。
レスミアもの事件もほどなく解決すると誰もが信じて疑いませんでした。

しかし。

つかの間の平和はそう長くは続きませんでした。
依然としてレスミアは殺され、死体を見ない日はありませんでした。

そんな中。

イストニアの王がノアミアに宣戦布告をしたのです。
「すべてを、焼き尽くし根源を断つ」と。

こうして
イストニアと、テオゴニーアの、世界を巻き込んだ戦争が始まったのです。

その戦争を皮切りに、レスミア連続殺人事件については沈下していきました。もう誰がどう殺したかなど、分からないほど戦場となった場所には人々の死体が転がっていたからです。

長い長い戦争になると思われたその戦い。
けれど、意外にも早く終止符が打たれました。

古い古い、誰もが知っている絵本に登場する
「神様の御使い」がその戦いを終戦へと導いたのです。

軍神「ルベウス」

戦いの神様と言われるその神様は、ノアミア側「テオゴニーア」の軍を率いて戦ったのです。一人で数千の敵を相手にしても傷一つ追うことのない程の強さをもちその軍は必ず勝利するといわれたそのお伽噺は、現実となりました。
これにはレスミア軍も敵いませんでした。

そして、小さな教会で人々を分け隔てなく人々を助けていたのは同じく御使いと呼ばれていた導きの神「サフィール」
だったのです。一緒につき従っていた女性も、賢者「エメラルダ」だと知ったテオゴニーアの人々は、自分たちの勝利を疑うことはありませんでした。

皆が知っている、神様が、自分たちの味方になってくれたのですから。
これほど力強いことはありません。
人々はより、サフィールとエメラルダをあがめました。

時を同じく、御使いの降臨を知ったイストニアの人々は自分たちこそが間違っていたのだと投降者が一人二人と増えてゆきました。

そして。
その戦いは全ての発端だとされるイグニス王の首をもって
終戦したのでした。

現在、イストニアのあった場所には記念石碑が立てられています。そして、軍神ルベウスが打ち取ったとされる森の中にも、ひっそりと記念碑が立っているといいます。

それらは、過ちを繰り返さないようにという
過去からのメッセージに他なりません。

イストニアは死地に戻り、今は何一つ残っていません。
軍神と謳われたルベウスもまたその力で終戦い導いて以後、姿を見せることはありませんでした。

悲しい過去が、歴史が今の幸せあふれるフォルトゥナを作り上げたことを忘れてはいけません。

そして、身勝手な思想や理想で人々を惑わせ、多くの命を死へと追いやった狂王イグニスの暴挙も許してはいけないのでしょう。

このお話は、過去を忘れないためにつづった歌なのです。
テオゴニーアの繁栄、フォルトゥナの未来永劫平和をつづった、歌なのです。